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自宅のリースバック契約

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相続を見据えたリースバックの検討――契約前に知っておきたい問題点

自宅を売却してまとまった現金を受け取りながら、その家に住み続けられる「リースバック」は、老後資金の確保や相続対策の手段として近年注目を集めています。「分けにくい不動産を現金に換えられる」「引っ越さずに済む」といったメリットが強調される一方で、契約内容や将来の収支計画を十分に理解しないまま契約してしまい、後悔するトラブルも少なくありません。国土交通省も2022年(令和4年)に一般消費者向けのガイドブックを公表し、注意を呼びかけています。
この記事では、相続を見据えてリースバックを検討する際に、あらかじめ知っておきたい問題点を整理します。

リースバックの基本的な仕組み

リースバックとは、所有している自宅を不動産会社などに売却し、その買主と賃貸借契約(リース契約)を結ぶことで、売却後も同じ家に賃料を払いながら住み続けられる仕組みです。契約によっては、将来的にその家を買い戻せる特約が付くこともあります。
ポイントは、家の所有権は買主に移る一方で、居住は継続できるという点です。売却で現金を得られるものの、その家はもはや自分の資産ではなくなり、以後は「借りて住む」立場になります。

相続対策としてのメリットとデメリット

 相続の場面でリースバックが検討される主な理由は、不動産という「分けにくい財産」を現金に換えられる点にあります。
 たとえば、主な相続財産が自宅だけで、相続人が複数いる場合、不動産をそのまま遺すと遺産分割で揉めやすくなります。あらかじめ現金化しておけば、法定相続分に応じて分けやすくなり、また相続税の納税資金としても活用できます。住み慣れた家を離れずに現金を用意できるという点も、他の売却方法にはない特徴です。
 これらのメリット自体は事実です。
 しかし、次に挙げるような問題点も併せて理解したうえで判断する必要があります。

問題点1:住み続けられなくなるリスク

最も注意すべきなのが、「途中で家を出ていかなければならない」リスクです。これは賃貸借契約の種類に直結します。
賃貸借契約には普通借家契約定期借家契約の2種類があります。普通借家契約であれば、借主が希望する限り更新でき、正当な事由がない限り退去を求められません。一方、定期借家契約は契約期間の満了で確定的に終了し、「更新」という概念がありません。住み続けるには、貸主との合意による再契約が必要になります。
リースバックでは定期借家契約が用いられることが多く、その場合の契約期間は2~3年程度が一般的です。ここに落とし穴があります。契約時に「再契約できます」と口頭で説明されても、契約書に「貸主は正当な理由なく再契約を拒否できない」といった特約がない限り、貸主は自由に契約終了を告げることができます。買主(事業者)は買い取った物件を第三者に転売して利益を得ることを見込んでいる場合があり、借主の希望と利害が対立する構造もあります。特に地価が上昇して転売した方が利益が出ると判断された場合や、建物が老朽化した場合には、再契約を拒否されるリスクが高まります。
加えて、契約期間内であっても、家賃の滞納などの契約違反があれば強制退去となる可能性があります。一般に、信頼関係が破壊されたとみなされる目安は「3か月以上の滞納」とされます。
つまり、一度売却してしまうと、住み続けられるかどうかの主導権は貸主側に移るという点が本質的なリスクです。

問題点2:売却価格が相場より低くなりやすい

リースバックでは、買取価格が市場相場を下回るのが一般的です。買主は、その物件を賃貸に出すリスクや期待する利回りを織り込んで価格を決めるため、通常の売却より低い金額になりやすいのです。提示された金額が妥当かどうかは、通常の売却相場と比較して初めて判断できます。

問題点3:家賃の負担と上昇リスク

家賃(リース料)は、売却価格・買主の期待利回り・周辺の家賃相場をもとに設定されます。売却価格を基準に利回りで逆算されるため、周辺の賃貸相場より割高になることが少なくありません。長期的に見ると、支払う家賃の総額が、売却で受け取った金額を上回ってしまうケースもあります。
また、契約内容によっては家賃が改定(上昇)されることもあります。年金生活のなかで家賃を払い続けられるか、配偶者が亡くなって世帯収入が減った場合はどうか、といったシミュレーションが欠かせません。

問題点4:買主の事情による不安定さ

所有権が買主に移る以上、買主(貸主)の信用リスクを借主が負うことになります。再契約の前に買主が物件を第三者へ転売し、新しい貸主から再契約を拒否される可能性があります。さらに、買主が倒産したり、物件を担保に借り入れをして返済できなくなったりすれば、競売などによって第三者に所有権が移り、居住が脅かされる事態も考えられます。

問題点5:買い戻しのハードル

「将来買い戻せる」ことがメリットとして紹介されることがありますが、買い戻し価格は売却価格より高く設定されるのが通常です。そもそも資金が必要で売却した人が、後で買い戻すだけの資金を用意できるのか、という現実的な問題があります。
買い戻しをめぐるトラブルは特に多く、口約束で交わした条件を後から反故にされるケースが目立ちます。買い戻しの価格・可能な期間・その他の条件は、口頭の合意で済ませず、必ず契約書に明記してもらうことが重要です。

相続の観点からの問題点

相続を専門に考える立場からは、次の点を特に押さえておく必要があります。

自宅が相続財産から外れる

リースバックをすると、自宅は相続財産ではなくなります。相続人が住み慣れた実家を承継したいと考えていても、その選択肢は失われます。

「相続税が下がる」とは限らない

これは最も注意を要する点です。「不動産を現金に換えると評価額が下がって相続税が減る」と説明されることがありますが、実際には逆になることがあります。
自宅を保有し続けた場合、相続時に土地は路線価(おおむね市場価格の8割程度)で評価され、さらに一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例によって居住用宅地の評価額を最大80%減額できます。一方、リースバックで受け取った現金は、額面の100%が相続税の課税対象になります。
したがって、相続人が同居していた親族であるなど特例の要件を満たせる見込みがある場合は、自宅を保有し続けた方が相続税は安く済むことが多く、現金化はむしろ税負担を増やしかねません。「現金化すれば相続税が下がる」という説明は、必ずしも正しくないのです。特例を使えるかどうかで結論が大きく変わるため、税理士による個別の試算が欠かせません。

売却時に譲渡所得税がかかる

リースバックによる売却の時点で、譲渡所得税が発生します。居住用財産を売却した場合の3,000万円特別控除が使えるケースもありますが、適用要件を満たすかどうかの確認が必要です。

現金化は「両刃の剣」

現金は分割しやすい反面、生活費などで費消されて結局ほとんど残らないというリスクや、逆に本人の生前に相続人の間で使途をめぐる不信が生じるリスクもあります。また、契約期間中に本人が亡くなった場合、相続人が賃借権、すなわち家賃の支払義務を承継する点にも注意が必要です。

検討する際のチェックポイント

リースバックを検討する場合は、少なくとも次の点を確認しましょう。

  • 賃貸借契約が普通借家契約か定期借家契約かを、契約書で確認する
  • 契約期間は何年か、更新・再契約の条件はどう定められているか
  • 買い戻しの価格・可能な期間・条件が契約書に明記されているか
  • 家賃改定(値上げ)の条項の有無、修繕費や退去時の原状回復費用の負担区分
  • 提示された買取価格・家賃が妥当か、複数の会社を比較して検討する
  • 小規模宅地等の特例が使えるかどうかを含め、税理士に相続税の試算を依頼する

まとめ

リースバックは、分けにくい不動産を現金化し、遺産分割をしやすくするという点では、相続対策の選択肢のひとつになり得ます。しかしその一方で、居住の安定性が損なわれるリスク、売却価格や家賃の面での経済的な負担、そして相続税の面ではむしろ不利になり得るという問題を抱えています。特に、小規模宅地等の特例が使えるかどうかによって、有利・不利の結論は大きく変わります。
リースバックの契約は、一度結ぶと後戻りが難しいものです。リバースモーゲージや生前贈与、遺言による対応など、他の方法とも比較したうえで、弁護士や税理士といった相続の専門家に相談し、ご自身とご家族の状況に本当に合っているのかを慎重に判断することをおすすめします。